マラソン競技では厚底シューズがブームになっている。
ナイキが開発した厚底シューズ ズームヴェイパーフライ4%で好記録が連発している。その威力は”ドーピングシューズ”とも言われかねないほどのようだ。
リオ五輪で優勝したキプチョゲ選手の要望で開発に着手したシューズだったようで、ナイキのイベントブレーク2ではサーキットで行われた非公式のマラソンで本人が2時間0分25秒を記録している。これはもう近い将来確実にマラソンは2時間を切ることを意味していると思う。
その後こぞって多くのトップランナーが使い自己記録を更新している。アメリカのゲーレン・ラップほどのトップランナーが”下りを走っている感覚だ”と言うほどなのだからそのすごさが分かる。
マラソンの日本記録もそうだ。設楽選手の2時間6分11秒も、大迫選手の2時間5分50秒もこのナイキのシューズで達成された。明らかに今までのシューズとは違うと言う選手のコメントからも分かるように、やはりテクノロジーが記録を押し上げていることは明らかだと思う。
そして、注目すべきはただ単に厚底にしてクッション性が増したため選手の疲労が軽減されたからではないと言うことだ。
通常のマラソンシューズは15㎜程度が主流のようだがナイキの厚底シューズは30㎜以上だと言う。薄いマラソンシューズでは10㎜のものもあるからいかに厚底化が分かる。今までだとアップ用のシューズでしかこの厚さは考えられなかったと思う。
ナイキの厚底シューズは厚底の中にクッション性だけでなくより推進力をもたらせる構造を組み入れたことがポイントだ。
この30mmの厚さのクッション素材の中にカーボンプレートが内蔵されている。こ゚のカーボンの反発力こそ、力強い推進力を生み出す原動力となっているようなのだ。
極端なことを言えばバネが入ったようなものだと思う。従来はクッション性より軽量化が求められていたのがマラソンシューズだが全く違う発想だと思う。
このナイキの厚底シューズのようにクッション性を高めててさらにより推進力を生みだすシューズは明らかに選手の力以上のものを発揮させるシューズの開発という違う方向性になってきていると思う。今までは軽量化と最低限のクッション性と選手の足にいかにフィットすさせた形状を持たせる程度だったと思う。
カーボンと聞いてしまうとどうしても自転車のフレームやホイールのカーボン化が真っ先の思い浮かんでしまう。
自転車の場合は軽量化の過程で生まれた。もちろん優れた反発性と振動吸収性もそうだ。今ではロードバイクでは完全に主流となった。
そして、とうとうランニングにもカーボンが取り入れられたかと言った感じた。もちろん陸上でもトラック競技用のスパイクのソールにはかなり前からカーボンは取り入られていた。でもそれはバイクシューズのカーボンソール同様で、軽量化の側面が大きかったと思う。ただ、ランニングシューズへの導入は明らかに大幅な記録向上へとつながる大きな変革だ。
このナイキの厚底シューズをきっかけにして、強い推進力を生みだすシューズの開発は今後さらに進むと思う。重さをある程度のこと頃に抑えられればあとはランナーの疲労軽減と強力な推進力が記録短縮のためのカギだ。
そもそも、楽して速く走りたいと言うあまたの市民ランナーのニーズにこたえるに十分な市場価値がある。
シューズ底の厚さと言うスペースの確保はある意味可能性を秘めていると思う。疲労軽減と強力な推進力が求められるのならそのスペースにあらゆる機能を内蔵すればいいのだ。もちろんある程度の軽量化の範囲内でだが、将来的には超小型リチウムイオン電池搭載のスマートウォッチと連動させた変速機能だって出てくるかもしれない。例えばイーブン走行モードやスパート時にスピードを上げられるためのモードを作ってカーボンソールの変速に因るパフォーマンスの変化を持たせることも可能になるかもしれない。
だいたい携帯電話を見ても同じような変化を遂げてきた。最初は単に小型軽量化を目指していたが、スマートフォンになってからはやがて大型化していき機能面が重視されていった。ポケットに収まらないようなモデルまで出たころには当初の軽量化などほとんど忘れ去られていたと思う。結局はパフォーマンスが求められるようになるのだろう。
今のところ陸上競技ではシューズの底の厚さに規定はない。(唯一走り高跳びだけには規定がある。確かにそれはそうだとは思うが・・)
箱根駅伝を走る大学でも既に確か近年最強の青山学院大学はこの厚底シューズを採用していたと思うが、次の大会からは他の大学チームもこぞってこのシューズを採用して来るだろうと思う。何よりこのシューズで日本記録を出した設楽選手は東洋大、大迫選手は早稲田大と箱根駅伝常連校出身だ。
今現在はナイキのシューズに限られるようだが、他のシューズブランドもこぞって厚底シューズの開発に出てくるだろう。
アシックスの ”ゲル” などはもはや完全に過去のものとなった感はある。長らく日本のランナーから支持されていたアシックス辺りはかなり危機感を持っているのではないだろうかと思う。
ロードバイクのカーボンフレーム市場を見れば良く分かる。もともとトレックがカーボンバイクを作っていたが、ツールドフランスでの活躍であっという間に知名度を上げた。そのため、ヨーロッパの伝統的なブランドであるコルナゴやピナレロなどの競合メーカーも部分的にカーボンを導入していった。最初の頃はフォークだけカーボンになり、やがてシートチューブをカーボン化した。(いわゆるバックカーボン化)そして、各社ともフルカーボンだ。
テニスのブランドで知られるヨネックスまで今では自転車のカーボンフレームを世に出している時代だ。確かにラケットの素材がカーボンであれば参入しやすかったのかもしれないが、どうしてもあのヨネックスマークが自転車のフレームに入って言うことには違和感を覚えてしまう・・・ テニスのヨネックスだけにしとけよと言いたい。
そんな時代だと言うのに私は相変わらずクロモリロードバイクに乗っている。一時期アームストロングに騙されてトレックカーボンに乗りはしたがやはり伝統的なクロモリフレームが好みだ。